都市スケッチ

都市の風景に潜む、一瞬の揺らぎを封じ込めた掌編群。

詩文 × 映像 × 音楽。

港町の風景、都市の余白、人の感情。

その一瞬を、言葉と映像で切り取る。

鴎のように、街を俯瞰し、時に群れ、時に孤高に飛ぶ。

海、港、 風、 光、静寂。

説明より、気配を。答えより、余韻を。

ここは、境界線の上を飛ぶための、小さな作品群です。

作品一覧:

都市スケッチ No4.酷いんです

女が、言った。

先生、聞いて下さい。

あの人は、
酷いんです。
とても、酷いんです。

見栄っ張り、
自意識過剰、
何より、皮肉屋。

酷いんです。

美意識が強く、
社会規範も、
慣習も、気にしない。

女が、笑った。
少し、困ったように。

でも、彼。
子供みたい。

純粋で、
何でも、
夢中になって。

彼は、
酷いんです。

けれど、
愛しているんです。
とても……

都市スケッチ No8.リフレイン

一度だけ、
彼と歌った曲。
今日、またここで。

柔らかなイントロ。

繊細な和音、
さざ波のように、
すっと、広がる。

あの時は、
瑞々しさ、
少しの背伸び、
夢を見た。

今は、
成熟と優しさ、
微熱時代。

音が重なる。

少年少女だった、
まだ。

そして、
音がスッと消えた。

都市スケッチ No11.母娘

テーブルには、
いつもの母娘。

注文は、
ホットココアとミルク。

ポール・マッカートニー、
穏やかな歌声が流れる。

スピーカーを見上げ、
「この歌、好き。」と娘が言う。

 「ふふっ、一緒」
 「なにが?」

 「ママも、昔から好きだったの」

 「じゃ、同じだね」
 「そうね、同じ」

雨上がり、
陽に照らされた舗道。

そして、一瞬のきらめき。

行き交う人々。
その足取りも、
軽やかに見える。

やわらかい風が、
カーテンを揺らした。

都市スケッチ No14.違うかい

芸術家に、
常識なんか、
求めちゃ、いけない。

少し壊れている。

少し、
世間との距離が、
狂っている。

アウトサイダー。
屈折。

時に、
厄介で、
救い難い。

己を削り、
美意識だけを、
拠り所にする。

だから、
ある時、
胸を打つ。

世間に迎合し、
拍手を集める者。

流行を纏い、
空気を売る者。

それも、
ひとつの生き方だろう。

だが、
そこに、
震えを見たことはない。

芸術は、
マスコットではない。
ましてや、
マーケットでもない。

世界のどこかにある、
名もない震えを掴むこと。

そのために、

少し壊れ、
少し狂い、
少し孤独を、
恐れないことだ。

違うかい。