Seagull Works

小説、エッセイ、掌編、そして詩文×音楽×絵画による総合芸術。都市の揺らぎを掬い、言葉と映像と音で封じ込める、創作の場所。

都市の揺らぎ、一瞬の切り替わり——その微細な息継ぎを、丁寧に掬い取った作品たちを収めています。

Urban Sketches

都市の風景に潜む、一瞬の揺らぎを封じ込めた掌編群。

詩文 × 映像 × 音楽。

港町の風景、都市の余白、人の感情。

その一瞬を、言葉と映像で切り取る。

鴎のように、街を俯瞰し、時に群れ、時に孤高に飛ぶ。

海、港、 風、 光、静寂。

説明より、気配を。答えより、余韻を。

ここは、境界線の上を飛ぶための、小さな作品群です。


作品抜粋:No.1~No.30

都市スケッチ No4.酷いんです

女が、言った。

先生、聞いて下さい。

あの人は、
酷いんです。
とても、酷いんです。

見栄っ張り、
自意識過剰、
何より、皮肉屋。

酷いんです。

美意識が強く、
社会規範も、
慣習も、気にしない。

女が、笑った。
少し、困ったように。

でも、彼。
子供みたい。

純粋で、
何でも、
夢中になって。

彼は、
酷いんです。

けれど、
愛しているんです。
とても……


都市スケッチ No8.リフレイン

一度だけ、
彼と歌った曲。
今日、またここで。

柔らかなイントロ。

繊細な和音、
さざ波のように、
すっと、広がる。

あの時は、
瑞々しさ、
少しの背伸び、
夢を見た。

今は、
成熟と優しさ、
微熱時代。

音が重なる。

少年少女だった、
まだ。

そして、
音がスッと消えた。


都市スケッチ No11.母娘

テーブルには、
いつもの母娘。

注文は、
ホットココアとミルク。

ポール・マッカートニー、
穏やかな歌声が流れる。

スピーカーを見上げ、
「この歌、好き。」と娘が言う。

 「ふふっ、一緒」
 「なにが?」

 「ママも、昔から好きだったの」

 「じゃ、同じだね」
 「そうね、同じ」

雨上がり、
陽に照らされた舗道。

そして、一瞬のきらめき。

行き交う人々。
その足取りも、
軽やかに見える。

やわらかい風が、
カーテンを揺らした。


都市スケッチ No14.違うかい

芸術家に、
常識なんか、
求めちゃ、いけない。

少し壊れている。

少し、
世間との距離が、
狂っている。

アウトサイダー。
屈折。

時に、
厄介で、
救い難い。

己を削り、
美意識だけを、
拠り所にする。

だから、
ある時、
胸を打つ。

世間に迎合し、
拍手を集める者。

流行を纏い、
空気を売る者。

それも、
ひとつの生き方だろう。

だが、
そこに、
震えを見たことはない。

芸術は、
マスコットではない。
ましてや、
マーケットでもない。

世界のどこかにある、
名もない震えを掴むこと。

そのために、

少し壊れ、
少し狂い、
少し孤独を、
恐れないことだ。

違うかい。


都市スケッチ No18.Prost

昨晩の雨。

吹く海風も、
少し肌寒い。

皿には、
ムール貝。
白い香草ウィンナー。

港では、
オクトーバーフェスト。

遠くで、
ドイツ民謡が流れている。

リンゴビール片手。

ステージに、
灯りが点いた。

弦を掻き鳴らす音。
少しハスキーな声。

海風の中でも、
不思議と残る。

冷えた手で、
手拍子が始まる。

小さく。

そして、
うねる。

「Prost!」

誰かが叫ぶ。

飲み干して、
もう一杯。

笑い声。

グラスの音。

赤ら顔たちの、
少し上。

海カモメが、
すまして飛ぶ。


都市スケッチ No21.Adagioの休日

この街の時間、
あの街と違い、
緩やかに進む。

四拍子。

三連休、
Andanteから、Adagioへ。

テラスには、
少し木漏れ日。

コーヒー片手に、
向かい合う。

六月、
少し湿った、潮風が吹く。

海、見よう。

二人、歩き出す。

港の公園では、
中国ゴマの大道芸。

空に舞い上がる、二つの赤いコマ。

キミは、
子どものように、
それを見ている。

Adagioの休日。

いつしか、
日が暮れる。

三拍子、Waltz。


都市スケッチ No22.ソリッド

男が、女に言った。

 ペアルック。
 あれは、いかにもだろ。

 だから。
 二人の時は、
 僕は、ボーダー。
 キミは、ストライプ。

 それが、僕らのペアルック。
 子供達には、チェック。

幸せな時代。

いつしか、
縦にも、横にも、
溝が出来、また重なる。

そして、ソリッド。
チェックには、ならなかった。


都市スケッチ No30.待ち時間

アナタ、 並んでいる行列見て、
「バカらしい」と、
思っているでしょう。

でも、 時には、
分かっていても、
並んで欲しいの。

今、 このやり取りも、
「無駄だな」って、
思っているでしょう。

でもね。

一緒の時間を過ごすって、
そういう事よ。

バカらしくて。
無駄で。

でも、何度でも繰り返してしまう。

だから、 愛おしいの。


都市スケッチ No30.リフレイン

──フェスが終わった夜。

港の灯りは、
少しずつ静まる。

熱気を孕む、
海風だけが、 残っていた。

耳の奥。
まだ、 歓声と拍手。

仲間たちの声、 
残響のように、響いている。

立ち止まり、 
夜空を見上げる。

音は消え。

今は、 
星だけが、瞬いていた。

同じ曲、
また繰り返す。

けれど、 
今日と同じ響き、
次は、
もうならない。

潮騒が、 
また寄せては返す。

どこか、 
似ているようで。

少しだけ、 違っているように。


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