生活観測

街角の看板、電車の車内、窓辺に置き忘れられたカップ――掌編エッセイは、都市の日常にひそむ一瞬の揺らぎをすくい上げた短い記録です。ここでは最新の3本を中心に、続きはNoteに置かれた他の作品へとつながっていきます。通勤や休憩の数分で読み切れるサイズで、都市を少しだけ違って見せる小さな物語を集めました。

書かれているのは大きな事件ではなく、「なんてことのない日」の微妙な違和感や、誰にも気づかれない心の動きです。行き交う人の仕草、マンションの灯りの並び、コンビニのレシート一枚から、都市と生活の輪郭をなぞります。読み終えたあと、あなた自身の暮らしの中にも、同じような揺らぎを探してみてもらえたらうれしいです。

都市観測

街角の看板、電車の車内、窓辺に置き忘れられたカップ──掌編エッセイは、都市の日常にひそむ一瞬の揺らぎをすくい上げた短い記録です。ここでは最新の3本を中心に、続きはNoteに置かれた他の作品へとつながっていきます。通勤や休憩の数分で読み切れるサイズで、都市を少しだけ違って見せる小さな物語を集めました。

生活観測∣午後の風

ここ十日ほど、随分と忙しかった。
少し走り過ぎたこともあり、午後からはオフにする。

連日の雨も上がり、
昼過ぎには、晴れ間が顔を出した。

こんな時は、
メリケンパークがいい。

初夏の陽射しと風。
芝生は濃い緑へと変わり、
風が吹くたび、穂先が静かに揺れる。

熊本のアイス屋の屋台で、
ブルーベリーアイスを注文する。

海を見ると、
帆船・海王丸が停泊していた。

岸壁に腰掛け、
しばらく眺める。

これが、オフだ。

海と風が、
身体に溜まった澱を、
ゆっくり流してくれる。文がここに入ります。


生活観測∣Michael/マイケルを観て

18歳、アメリカ留学時代。
カリフォルニア州立大学付属のESLで、「アメリカン・ヒーロー」をテーマに論文を書く課題があった。

多くの学生は、リンカーンやキング牧師、リンドバーグといった歴史上の英雄を選んでいた。

私は、ただ一人、マイケル・ジャクソンを選んだ。

当時は『HISTORY』が発売された頃。『You’re Not Alone』『Scream』はヒットしていたものの、アメリカでは「King of Pop」よりも、リサ・マリー・プレスリーとの結婚や奇行がゴシップとして消費され始めていた。

英雄を生み出し、熱狂し、そして消費していくアメリカ社会。

その姿への違和感が、18歳の私にはあった。

今回の映画は、その少し前、世界がまだマイケルを「アメリカン・ヒーロー」として見ていた時代を描いている。

あれほど世界を一つにできる時代のアイコンは、もう生まれないのかもしれない。


都市観測∣遠い街、近い記憶 ― 尾道にて ―

尾道を歩く。

その街を知るには、
商店街のような表通りだけでなく、
裏路地も歩く。

それこそ、
猫のように。

歩くほどに、
尾道は神戸・塩屋によく似ている。

山陽電鉄。
国道二号線、海。

山の斜面に建つ家々。
車も通れない細い坂道。

高校時代、
塩屋の友人宅へ泊まりに行った。

夜の坂道。
海からの風。
遠くの灯り。

歩きながら、
あの頃を思い出す。

彼は、
今も元気だろうか。


都市観測∣ねぷたの朱とポートタワーの赤

今年も、
ねぷたが、
高浜岸壁に。

白ワインで、
少しほろ酔い。

今日は、月も明るい。

折角なので、
夜風にあたり、
港に向けて、散歩。

酔い冷ましには、
ちょうど良い。

勇壮、艶やか。
港に浮かぶ、ねぷた。

ねぷたの朱、
ポートタワーの赤。
海面に映る。


都市観測∣踊ったサルサに、モヒート

待ち合わせより、少し早く到着。
折角なので、福島周辺を歩く。

懐かしい店もあるが、
私には、新しい。

二十年前。
西梅田での勤務時代。

金曜日の夜、
真紅のキューババー。
踊ったサルサに、モヒート。

あの熱は、
今も萌えているか。

生活観測∣独立記念日とサヴォイ

独立記念日は、
雨降りで始まった。

夏の雨。
傘を伝う雨だれも、
心地よく感じる。

落ち着いた店で、
旬の食事をいただく。

店長おすすめは、
ダツの天ぷら。

そして、
行きたかったサヴォイ。

モヒートを傾け、
また次の約束を交わす。

時々でいい。

その時は、
良い時間を共に過ごす。

それで、充分。

都市観測∣鳥取砂丘・砂の美術館

一泊二日の山陰の旅。

鳥取砂丘、砂の美術館で締めくくる。

植田正治をはじめ、多くの写真家を魅了した風景を、私も見てみたくなった。

当初の予定にはなかった場所。

一人旅は、
フィーリングで決めるくらいがちょうどいい。

十年振りの鳥取砂丘。

あの時は、娘達と駱駝に乗った。
景色を見るより、娘達の写真を撮ることに夢中だった。
私は、善き父親である自分ばかりを見ていたのかもしれない。

一人、砂丘を歩く。

坂を下り、
また砂の山を登る。

手の平から、
さらさらと滑り落ちる砂。

山頂を吹き抜ける強い風。

海と空が、
静かに溶け合っていた。

あの時と、同じ景色。

それでも、
私には、まったく違う景色に見えた。

自然は、何も変わらない。

変わったのは、
私の方だった。